紫ジャガイモ「シャドークイーン」のデクリネゾン。夏。。。                      チップとマッシュとヴィシソワーズ

トピナンブール(キクイモ)と豆乳でマカロニグラタン

紫ジャガイモ「シャドークイーン」のデクリネゾン。夏。。。
チップとマッシュとヴィシソワーズ

 デクリネゾンとはフランス料理用語で、一つの食材を色々な調理法で仕上げる事。コース全体で供される場面と1皿に盛り付けられる場面があります。ここではポテトチップとマッシュポテトとヴィシソワーズスープの3種を1皿にディッシュアップしました。
 ポテトチップは今、スナック菓子に分類されていますが、19世紀にアメリカで生まれた時には肉料理やジビエの付け合わせにされていたそうです。19世紀の終わり頃、保存性の高いポテトチップはアメリカで大量生産されるようになります。しかし消費者の手に届く頃には、シケっていたので人気はイマイチだったそうです。20世紀に入って真空パックの技術が普及して爆発的に人気が出ます。この頃、イギリスでもポテトチップの大量生産が始まりますが、イギリスではポテトチップとはフライドポテトの事を言うので、ポテトクリスプと名付けたそうです。現在、ポテトチップ業界は世界で年間約120億ドルの巨大産業になっています。
 マッシュポテトは単純な料理と思われていますが、実は様々な多様性を持っています。原産国ペルーではいろいろな具をマッシュポテトで巻いたり挟んだりした「カウサ」。アイルランドでは、マッシュポテトにキャベツを混ぜたハロウィンの祝祭食「コルカノン」。ギリシャでは、ニンニクがたっぷり入った「スコルダ」や魚介卵を混ぜた「タラモサラダ」があります。フランスでは、ローストビーフやポトフの残り肉とマッシュポテトで作るグラタンの「アッシュ・パルマンティエ」。これは18世紀のフランスの薬剤師、農学者、栄養学者であったアントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエの考案による料理。彼はドイツでジャガイモが凶作・飢饉を防ぐ重要性を知り、フランスで普及に貢献します。ジャガイモのデクリネゾン・フルコース晩餐会を開いたり、ルイ16世にジャガイモの花束を献上したり。。ルイ16世はジャガイモの花を気に入り、洋服に飾りつけたり、王妃マリー・アントワネットの髪飾りにしたそうです。その影響で貴族たちはこぞって庭園にジャガイモを栽培したそうです。
 ヴィシソワーズは本来、ジャガイモとリーキで作る冷たいミルキーなスープ。フランスの郷土料理と思われがちですが、実は20世紀初頭にニューヨークで生まれたそうです。考案したシェフがフランスのヴィシー地方出身だったことからヴィシソワーズの名がついたそうです。
 ここではリーキの替わりにロッサ・ルンガ(エシャロット系タマネギ)と、牛乳の替わりに有機豆乳で、近代、スウェーデンで流行りのヴィーガン・ヴィシソワーズに仕立てました。厳密なヴィーガンは食品添加物も食べませんので、無調整の有機豆乳を使います。最近はクセのない成分無調整有機豆乳も販売されてますので、ここではそれを使用しました。あっさりと爽やかですが、オリーヴオイルでよく炒めたロッサ・ルンガの濃厚な味と香りで、滋味溢れる逸品に仕上がっています。
 近年「熟成ジャガイモ」と称して冷蔵保存で糖質を増やしたジャガイモが流通しています。糖質の増えたジャガイモを揚げたり炒めたり焼いたり高温調理するとアクリルアミド(発癌性有害物質)の濃度が普通のジャガイモより多くなります。煮たり蒸したりすれば、アクリルアミドはできませんので、そういった調理法をお勧めします。また、ポテトチップやフライドポテトなど高温調理のジャガイモを食べたいなら、常温保存の熟成されていないジャガイモの方が濃度が少ないそうです。このアクリルアミドの件は農林水産省消費・安全局食品政策課によるものです。

 

紫ジャガイモ「シャドークイーン」

紫ジャガイモ「シャドークイーン」

 ジャガイモは世界4大作物の一つで、南米アンデス高原が原産。紀元前7,000年頃にはペルーのチチカカ湖周辺で栽培されていたそうです(栽培起源諸説有り)。大航海時代の16世紀にスペイン人によってヨーロッパへ伝播され、日本へは17世紀にオランダ船によって伝播されたそうです。
 17世紀のヨーロッパでは、ジャガイモはキノコに分類され、キノコ図鑑に登場します。その見た目と土中から収穫されることからトリュフの仲間と思われていたそうです。ドイツ語やロシア語でジャガイモをカルトッフェルと言いますが、これはイタリア語のタルトゥーフォ(トリュフの事)が語源だそうです。
 19世紀になるとイギリスでは、焼きジャガイモが人気となり、焼きジャガイモ屋ベイクド・ポテト・マンが街角で振り売りをしていたそうです。
 現代、原産地のペルーでは年に1度ジャガイモ祭りが開催され、500種類以上のジャガイモが販売されるそうです。もちろん、生イモだけでなく、カウサ(マッシュポテト系)、パパ・レジェーナ(コロッケ系)などの伝統料理や、新顔のピカロン(ドーナッツ)も販売されるそうです。
 現在、日本では北海道で一番多く生産されています。北海道といえば、「男爵イモ」で有名な川田龍吉男爵の話がよく出ます。19世紀後期、川田龍吉は造船留学中だったイギリス・スコットランドで大恋愛をします。寒い冬のデートの時には、よく二人で焼きジャガイモで冷えた体を温め、空腹を満たしていたそうです。結婚を誓って単身帰国しますが、父親の猛反対で悲恋に終わります。晩年、函館船渠会社の専務となった川田龍吉は函館郊外に9ヘクタールの広大な土地を購入し、イギリスとアメリカから11種類のジャガイモの種芋を取り寄せて、植え付けました。そのうちの一つが北海道の風土にマッチして、道内に広まり、男爵イモと呼ばれるようになったそうです。もし、その恋が実っていたら、男爵イモは実っていなかったかもしれませんね。
 ジャガイモには、大きく分けて2系統あります。一つは食感がねっとりとしたメークイン系のワクシータイプ、もう一つはホクホクとした男爵系のフラワリータイプです。紫ジャガイモ「シャドークイーン」は、北海道で2006年に登録された品種で、ワクシータイプです。その特徴はなんといっても濃い紫色で、この色素はフラボノイド系アントシアニンというポリフェノールの一つ。アントシアニンは日本国の食品機能性成分として認められています。暴飲暴食、盲飲盲食が祟って生活習慣病が死因全体の6割を占めている現代の日本人にとっては、なくてはならない栄養素と言って良いでしょう。他にも数種類のビタミン類が含まれているので、このシャドークイーンは健康への期待が高い健康機能性食品と言えるでしょう。

 

エシャロット系タマネギ「ロッサ・ルンガ」_イタリア野菜

エシャロット系赤タマネギ「トロペア・ロッサ・ルンガ」_イタリア野菜

 タマネギの原産地は中央アジアから地中海沿岸で、およそ紀元前5,000年頃から栽培されていたと考えられています(起源諸説有)。世界で最も古い作物のひとつで、おそらく穀物より以前から食べられていたと考えられ、いろいろな文明で人の歴史と文化に深く関わってきました。古代エジプトの王墓ピラミッドの壁に労働者がタマネギを食用にしている壁画が残っているそうです。また、古代ギリシャやローマではその高い薬効成分が評価されていました。ギリシャのオリンピック選手は、体力と持久力を向上させるために、食事の一部として大量に摂取していたそうです。現在、科学的に検証された抗酸化作用、抗炎症作用、血液循環改善、免疫強化などの健康作用が、なになに作用など、そんな言葉すら無かった紀元前の古代人も体感的にわかっていたんですね。
 古代の交易路の拡大や移住によって世界中に広がり、現代に至る伝統料理や近代のネオガストロノミーにまで浸透して、脇役ながらなくてはならない存在になっています。伝統的な料理では、イタリアの「ソフリット」、フランスの「ラタトゥイユ」、スペインの「パエリア」、ドイツの「ツヴェーベルクーヘン」、タイの「バッタイ」、「インドカレー」、ベトナムの「フォー」、ペルーの「セヴィーチェ」、メキシコの「エンチラーダ」、日本の「カレーライス」などたくさんのレシピに浸透しています。
 日本へは江戸時代にオランダ船によってもたらされましたが、当時ネギ類が多く栽培されていたため、食用としては普及しなかったそうです。本格的に栽培が始まったのは、明治維新によるものですが、やはりあまり振るわなかったそうです。どころが、関西でコレラが流行した時、タマネギがコレラに効くらしいという噂が広まって、日本中の食卓にタマネギが登場したいうことです。あくまでも噂ですが、この噂が無かったら、今のカレーライスには、長ネギが使われていたかもしれませんね。
 タマネギの品種は世界で2,000種類以上あると推定されています。しかし系統は大まかに分けて、4種類+α。白系、黄系、赤系、エシャロット系と極端に甘いスイート系です。エシャロット系は形が細長く、魅惑的な香りとほんのり甘い風味が特徴で、グルメ料理で高い評価を得ており、フランス料理によく使用されています。
 今回、栽培した「トロペア・ロッサ・ルンガ」もエシャロット系で、イタリア野菜の一つです。紀元前10世紀頃に地中海貿易を盛んに行っていたフェニキア人によって、現在で言うカラブリア州にもたらされ、栽培環境の適したトロペア地方に根付いたそうです。「トロペア・ロッサ・ルンガ」はトロペア地方を中心とした産地の赤タマネギ「カラブリアの赤い黄金」の内の1種で、細長い形が特徴です。「カラブリアの赤い黄金」は世界中に知られたPGIマーク(欧州連合原産地名称保護制度/イタリア語ではIGP)がついた農産物で、4月中旬から5月末に収穫されるトンダ・ピアッタ(平べったい球形)、5月中旬から6月中旬に収穫されるメッツァ・カンパーナ(半鐘型)、6月中旬から7月末に収穫されるアッルンガータ(細長型)の3種類があります。伝説のエオリア諸島を見渡すカラブリアのティレニア海岸沿いで栽培される「カラブリアの赤い黄金」は、肥沃な土地と海風がもたらす豊富なミネラルで特有の風味を持つそうです。この風土にならって、つくばの畑では発酵肥料の材料に海の素材の牡蠣殻とニガリを調合しています。カラブリア州トロペアと同じ味にはならないでしょうが、海由来のミネラル豊富な有機発酵肥料で他のタマネギとは一線を画した風味に仕上がっています。もちろん種子はイタリアから輸入されたもので栽培しているので、品種の特性は同等です。きっと、原産地の味に近いものと思われます。そうでなくても美味しいので、それはそれで良いことでしょう。トロペア生まれ、つくば育ちの独特な風味のエシャロット系赤タマネギです。

天高く マヤ放つ 愛
天高く マヤ放つ 愛
イタリアントマト「コストルト・フィオレンティーノ」
イタリアントマト「コストルト・フィオレンティーノ」